転倒事故はなぜ繰り返されるのか? 梅雨時に高まる医療・介護現場のリスクと再発防止の考え方【前編】

【医療・介護現場向け】現場運営・安全管理

はじめに
6月に入り、全国的に梅雨の時期を迎えます。
医療機関や介護施設では感染症対策や熱中症対策に目が向きがちですが、この時期に見過ごせないのが転倒事故のリスクです。
雨の日は床が濡れやすくなり、出入口や共用スペースの環境も大きく変化します。特に高齢者や身体機能が低下した利用者が多い医療・介護現場では、小さな環境変化が事故につながることもあります。

しかし現場を悩ませるのは、事故そのものだけではありません。
「なぜ事故が起きたのか分からない」という状況が、説明や再発防止の取り組みを難しくするケースも少なくないのです。

今回は、梅雨時に高まる転倒リスクの背景と、なぜ同じような事故が繰り返されてしまうのかについて整理します。

目次

梅雨時は医療・介護現場の転倒事故リスクが高まりやすい

梅雨の時期は、利用者や来院者が濡れた靴や傘を持って施設内へ入る機会が増えます。
出入口付近の床が滑りやすくなるだけでなく、廊下や待合スペースにも水滴が持ち込まれやすくなります。
介護施設では職員が送迎対応や衣類の着替え支援に追われる場面も増え、通常時より業務が慌ただしくなる傾向があります。
多くの施設ではマットの設置や定期的な清掃などの対策が行われています。
それでも転倒事故がなくならないのは、単純に床が濡れているからではありません。事故が発生する背景には、現場特有のさまざまな要因が重なっています。

転倒事故は「危険な場所」だけで起きるとは限らない

転倒事故というと、階段や浴室など明らかに危険な場所をイメージする方も多いかもしれません。
しかし実際には、居室から廊下へ出るタイミング、トイレへ移動する途中、食堂へ向かう通路、受付や待合スペースなど、日常的に利用している場所で発生するケースも少なくありません。
職員にとっては見慣れた場所でも、利用者にとってはその日の体調や天候によって状況が変わります。特に高齢者の場合は、わずかな段差や床の状態の変化が転倒につながることもあります。
つまり、事故は特別な場所だけで起こるわけではなく、日常の中に潜んでいるのです。

事故の瞬間を誰も見ていないことは珍しくない

転倒事故が発生した際、現場でよく聞かれるのが「気づいた時には倒れていた」という言葉です。
医療・介護現場では、一人の利用者だけを常に見守ることは現実的ではなく、複数の利用者対応を同時に行っています。事故の瞬間を誰も見ていないケースは、決して珍しいことではありません。
問題はその後です。
なぜ転倒したのか、どのような状況だったのか、介助は必要な状態だったのか、体調変化はなかったのか。
こうした情報が分からないままでは、適切な再発防止策を検討することが難しくなります。

事故報告書だけでは把握しきれないことがある

転倒事故が発生すると、多くの施設で事故報告書が作成されます。
事故発生場所や発見時の状況、利用者の状態などを記録することは非常に重要です。しかし事故報告書は、あくまで事故発生後に整理された情報です。
利用者が自ら立ち上がろうとしていたのか、歩行中につまずいたのか、周囲に職員はいたのか、環境的な要因はなかったのか。
こうした情報が把握できなければ、再発防止策も根拠のないものになりやすく、結果として同じような事故が繰り返される原因になることがあります。

転倒事故対策は「防ぐこと」と「把握できること」の両輪で考える

転倒事故対策というと、防止策に意識が向きがちです。
もちろん事故を減らす取り組みは重要です。
しかし医療・介護現場では、「事故後に状況を説明できること」も同じくらい重要になります。
利用者本人やご家族への説明、施設内での振り返り、再発防止策の検討など、多くの場面で状況の把握が求められます。
事故を防ぐ視点と、「何が起きたのかを把握できる体制を整えること」は、どちらか一方ではなく両輪で考える必要があります。

まとめ

梅雨時は、床の濡れや利用環境の変化によって転倒事故のリスクが高まりやすい季節です。
しかし、転倒事故の課題は事故そのものだけではありません。
なぜ起きたのかが分からないことで、説明や再発防止が難しくなるケースも少なくありません。
事故を減らすためには、危険箇所への対策だけでなく、事故発生時の状況をどのように把握するかという視点も重要です。
まずは自施設で「事故後に状況を振り返れる体制があるか」を確認してみることが、改善の出発点になります。

後編では、転倒事故の再発防止につなげるための記録や状況把握の考え方と、現場の負担を増やさずに取り組める運用改善について、具体的に解説します。

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